古い家を相続放棄しても管理義務は残るって本当?管理義務の有無をケース別に解説

古い家を相続することになったときに、「管理義務」を負うことを避ける方法の一つとして「相続放棄」があります。

しかし、「相続放棄」したにもかかわらず、古い家の「管理義務」が残ってしまう場合があります。

今回は、古い家の「管理義務」の有無をケース別に解説し、「管理義務」を怠った場合のリスク、「管理義務」から逃れる方法、「相続放棄」せずに古い家を処分する方法、などについても詳しく解説します。

目次

古い家を相続放棄しても管理義務は残るって本当?

古い家を「相続放棄」したとしても「管理義務」が残ってしまうことがあります。

このことは、2023年3月までの旧民法にも規定されていたのですが、『誰に「管理義務」が残るのか』について明確に示されていないという問題がありました。

2023年4月の法改正により、管理義務の対象者が明確に

2023年4月に、この問題点を踏まえた民法改正が行われ、『相続人が「相続放棄」したときに相続財産を現に占有している場合に「管理義務」がある』ことが明確になりました。

逆に言えば、『相続人が「相続放棄」したときに相続財産を現に占有していない場合には「管理義務」はない』ことになります。

ここで「現に占有している」とは、「実際にその相続財産を利用している」ことをいいます。

古い家の場合では、「実際にその古い家に居住している」ことや「実際に自分の所有物をその古い家に置いている」ことなどが「現に占有している」ことの典型的な実例となります。

なお、2023年4月の改正民法では、従来の「管理義務」という用語が「保存義務」に変更されましたが、従来から「管理義務」という用語が使われていますので、この記事でも「管理義務」を使って説明します。

管理義務が発生しない具体的な事例

改正民法で「管理義務」の対象者が明確に示されましたので、「管理義務」が発生しない2つの具体的な事例を紹介します。

「管理義務」が発生しない具体的な事例【1】相続財産である古い家に、被相続人である父親と同居していたが、父親が死亡したときに転居して、「相続放棄」したときには、その古い家には居住していなかった。
「管理義務」が発生しない具体的な事例【2】学校を卒業して以来、相続財産である古い家には居住したことはなく、被相続人である父親が死亡して「相続放棄」したときにも、その古い家には居住していなかった。

古い家の管理義務の有無をケース別に解説

古い家を「相続放棄」した場合に、「管理義務」の有無がどうなるのかについて、ケース別に解説します。

ケース1:他に相続人がいる

これは、「相続放棄」した本人の他に相続人がいるケースについてです。

相続放棄した本人が古い家を現に占有していない場合

「相続放棄」した本人が、「相続放棄」したときに古い家を現に占有していなかった場合は、そもそもこの「相続放棄」した本人には「管理義務」がありません。

つまり、他の相続人の有無や、他の相続人が「相続放棄」したか否かにかかわらず、この「相続放棄」した本人には「管理義務」はないということです。

相続放棄した本人が古い家を現に占有している場合

「相続放棄」した本人が、「相続放棄」したときに古い家を現に占有していた場合は、この「相続放棄」した本人に「管理義務」があります。

しかし、他の相続人が古い家を相続すると、「管理義務」も含めて相続したことになりますので、「相続放棄」した本人には「管理義務」は残りません。

ケース2:古い家を現に占有している

これは、古い家を現に占有している者がいるケースについてです。

古い家を現に占有している者が「相続放棄」した場合には、2023年4月の改正民法の規定により、その者に「管理義務」があります。

ケース3:法定相続人全員が相続放棄し、古い家を現に占有している者がいない

これは、法定相続人全員が古い家の「相続放棄」していて、古い家を現に占有している者がいないケースについてです。

この場合のように、法定相続人全員が「相続放棄」したときに古い家を現に占有していなかった場合は、法定相続人全員には「管理義務」はありません。

法定相続人全員が「相続放棄」していますので、家庭裁判所が選任した相続財産清算人による債権弁済や特別縁故者への財産分与の後、最終的に古い家は国庫に帰属することになります。

なお、相続財産清算人の選任には2ヶ月ほどかかりますので、その間は法定相続人全員に「管理義務」が残ります。

古い家の管理義務があるのに管理を怠った場合のリスク

古い家を「相続放棄」しても「管理義務」が残るケースがありますが、もし適切な管理を怠った場合にどのようなリスクがあるのでしょうか?

想定されるリスクとして、次の3つを挙げることができます。

古い家の管理義務を怠った場合のリスク

  • リスク1:損害賠償を求められる
  • リスク2:犯罪に巻き込まれる
  • リスク3:近隣住民に迷惑がかかる

以下で、それぞれについて説明します。

リスク1:損害賠償を求められる

古い家の「管理義務」があるのに管理をきちんとしなかったために、古い家が崩壊したり破損したりして資産価値が低下したりなくなったりした場合には、被相続人の債権者や受遺者から損害賠償を求められる可能性があります。

また、「相続放棄」した家の壁やブロック塀などが倒壊して通行人が負傷したような場合にも、負傷した人から損害賠償を請求される可能性があります。

リスク2:犯罪に巻き込まれる

古い家の管理をきちんとしなかったために、古い家に入り込んだ者が犯罪を犯したり、古い家を拠点として犯罪行為を行ったりすると、その犯罪に巻き込まれる可能性があります。

または、古い家を犯罪者に提供したとして、共犯を疑われることになるかもしれません。

リスク3:近隣住民に迷惑がかかる

古い家の管理をきちんとしなかったために、古い家の中のものが腐敗して異臭を放ったり、ゴミなどが飛散して、近隣の住民に迷惑がかかる可能性があります。

古い家を相続放棄した場合、管理義務があっても勝手に処分するのはNG!

古い家を「相続放棄」した場合でも「管理義務」が残ってしまうことがありますが、自分に「管理義務」があるからといって、古い家の中の遺品を勝手に処分することはできません。

「相続放棄」とは、被相続人の権利や義務をすべて放棄するということですので、財産の一部である遺品を処分することはできないのです。

処分をしてしまうと「法定単純承認」が成立してしまいますので、「相続放棄」がなかったことになり、古い家を含めたすべての遺産を相続することになってしまいます。

もし、被相続人に多額の借金があった場合にはその借金も相続しなければならなくなり、その借金を背負うことになってしまいます。

なお、手紙や写真などのように経済的価値がないものの形見分けは、処分には該当しないと判断されます。

古い家を「現に占有している人」が管理義務から逃れるには?

2023年4月の改正民法では、古い家の「管理義務」は『相続人または相続財産清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間』残るということも明確になりました。

したがって、「相続放棄」したときに古い家を現に占有していたために「管理義務」が残ってしまった人は、相続人または相続財産清算人に古い家を引き渡せば「管理義務」から逃れることができるということになります。

引き渡した以降は、相続人や相続財産清算人が「管理義務」を負うことになります。

以下では、「他の相続人に相続権を移す」場合と「相続財産清算人を選任する」場合について説明します。

<1>他の相続人に相続権を移す

「相続放棄」した場合に次順位の相続人がいれば、その人に相続権が移ります。

ですから、次順位の相続人が古い家を相続してくれれば「管理義務」はなくなります。

しかし、次順位の相続人も「相続放棄」した場合は、「管理義務」が残ります。

<2>相続財産清算人を選任する

<1>の場合のように、次順位の相続人が「相続放棄」すると「管理義務」が残ってしまいますので、「管理義務」を逃れるためには家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てる必要があります。

相続財産清算人に古い家を引き継ぐと、「管理義務」から逃れることができます。

相続財産管理人の選任方法

相続財産清算人の選任を申し立てる際は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で手続きをしなければなりません。

相続財産清算人の選任の申し立てができるのは、利害関係人(被相続人の関係者、特定遺贈を受けた人、特別縁故者など)や検察官で、家庭裁判所では内容を審査して最適な「相続財産清算人」を選任します。

相続財産清算人は、専門的な知識を持った弁護士や司法書士などが選ばれますが、申立人が候補者を推薦することもできます。

しかしながら、家庭裁判所での審査がありますので候補者が選任されるとは限りません。

相続財産清算人の選任の申し立てに必要な書類は、次の通りです。

相続財産精算人の選任の申立てに必要な書類

  • 申立書
  • 戸籍謄本類(出生から死亡までのすべて):被相続人、被相続人の両親、被相続人の子どもや代襲者(死亡している人がいる場合)、被相続人の直系尊属(祖父母や曽祖父母など)、被相続人の兄弟姉妹(死亡している人がいる場合)、代襲者としての甥や姪(死亡している人がいる場合)
  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  • 財産に関する資料(不動産登記事項証明書、預貯金通帳写し、残高証明書など)
  • 利害関係に関する資料(利害関係人が申し立てる場合)
  • 相続財産清算人候補者の住民票または戸籍附票(候補者を推薦する場合)

相続財産清算人の選任の申し立てに必要な費用は、次の通りです。

相続財産精算人の選任の申立てに必要な費用

  • 収入印紙:800円
  • 連絡用の郵便切手:1,000円~2,000円程度
  • 官報公告料:5,057円
  • 戸籍謄本取得費用:1,000円~5,000円程度

また、これらの費用とは別に「予納金」として、10~100万円程度を支払わなければならないことがあります。

「予納金」は、相続財産清算人の報酬や遺産の清算のために必要な経費に充てられるもので、最終的に残った金額は返還されます。

相続放棄をせずに古い家を処分する方法はある?

「相続放棄」せずに古い家を処分する方法として、次の4つが考えられます。

相続放棄せずに古い家を処分する方法

  • 【1】売却する
  • 【2】譲渡する
  • 【3】寄付をする
  • 【4】相続土地国庫帰属制度を利用する

以下、それぞれについて詳しく解説します。

【1】売却する

「相続放棄」せずに古い家を処分する方法として、売却する方法があります。

売却する場合は、不動産仲介業者に依頼する方法と専門の買取業者に依頼する方法がありますので、それぞれについて説明します。

不動産仲介業者に依頼する

古い家を売却する場合、不動産仲介業者に依頼する方法があります。

不動産仲介業者は、売主からの依頼を受けて広告活動を行って購入希望者を探し、購入希望者との間で合意が成立すると、契約手続きや登記手続きのフォローや代行なども行ってくれます。

売買契約が成立すると、不動産仲介業者に法定の仲介手数料を支払います。

不動産仲介業者に依頼する前には、複数の業者に査定を依頼して、より高い金額で売却してくれるところに依頼するようにしましょう。

良い業者を選定するためにも、それぞれの業者と面談をして査定結果の説明を受けることをおすすめします。

なお、古い家は中古住宅ですので、売主は買主に対して「契約不適合責任」を負うことになります。

専門の買取業者に依頼する

古い家を売却する場合、専門の買取業者に依頼する方法があります。

専門の買取業者とは、古い家などの中古物件を買い取ってリノベーションを行って再販している不動産業者です。

再販価格から買取価格とリノベーション費用を差し引いた金額が収益となりますので、その分だけ売却価格は安くなってしまいます。

そのため、不動産仲介で売却した場合に比べると20~40%ほど安い売却価格になりますが、売主には手間がかからず、1週間~1ヶ月程度の短期間で売却することができます。

また、リノベーションを前提として買い取りますので「契約不適合責任」が免責になる点も売主にとってはメリットとなります。

【2】譲渡する

「相続放棄」せずに古い家を処分する方法として、知人や親族などに譲渡するという方法があります。

知人や親族などの中に、古い家を探している人がいれば、相手にも喜んでもらえますし、自分自身も「相続放棄」する必要がありません。

ただし、この場合は古い家を受け取った側には贈与税が課税されることになりますので注意が必要です。

なお、譲渡した側の自分自身には税金はかかりません。

【3】寄付をする

「相続放棄」せずに古い家を処分する方法として、寄付をする方法もあります。

寄付することによって、無償で古い家を渡して自分自身の所有権をなくすことができます。

寄付の相手としては、自治体、法人(営利法人や公益法人など)、個人が考えられます。

まず、自治体の場合は、自治体に具体的な使用目的があって自治体が設定した条件が満足されていれば寄付を受け入れてくれます。

しかし、自治体としては土地は個人に所有してもらって固定資産税を納めてもらった方が良いため、実際の寄付の受け入れ事例は少ないようです。

次に、法人の場合も、具体的に使用する目的がある場合は寄付を受け入れてくれる可能性もありますが、使用目的がないままに寄付を受け入れることはないと思われます。

営利法人が寄付を受け取ると「みなし譲渡所得」として課税されますが、公益法人の場合は所定の手続きをすることによって非課税となります。

最後に、個人の場合、最も可能性が高いのは隣地の所有者に寄付することで、これは隣り合った土地であれば有効に活用することが可能だからです。

個人が寄付を受けると贈与を受けたことになり贈与税がかかりますので、この点について納得してもらえれば、寄付を受け取ってもらえる可能性は高いと考えられます。

【4】相続土地国庫帰属制度を利用する

「相続放棄」せずに古い家を処分する方法として、「相続土地国庫帰属制度」を利用する方法があります。

この制度は、2023年4月から始まった制度で、相続や遺贈によってその土地を取得した所有者のみが利用することができます。

また、抵当権などの設定がない、争いや問題がない更地のみが利用可能となっています。

つまり、建物が建っていたり、抵当権が設定されていたり、汚染されていたり、境界が明らかでなかったりする土地は利用できません。

相続土地国庫帰属制度の利用に必要な手続き

相続土地国庫帰属制度を利用する場合は、その土地の所在地を管轄する法務局に申請する必要があります。

相続土地国庫帰属制度を利用するための承認申請に必要な書類は、次の通りです。

相続土地国庫帰属制度を利用するための承認申請に必要な書類

  • 承認申請書
  • 図面(申請する土地の位置及び範囲)
  • 写真(申請する土地、隣接地との境界点、土地の形状)
  • 申請者の印鑑証明書
  • 固定資産税評価額証明書(任意)
  • 現地案内図(任意)

相続土地国庫帰属制度を利用するために必要な費用は、次の通りです。

相続土地国庫帰属制度を利用するために必要な費用

  • 審査手数料(承認申請時)
  • 負担金(10年分の土地管理費用相当額)

法務局の担当官が申請書類を審査し、必要に応じて実地調査を行います。

その結果、却下事由も不承認事由もない場合は、申請が承認されて負担金額が申請者へ通知されますので、通知を受けた日から30日以内に所定の負担金を納付しなければなりません。

負担金の納付によって、対象の土地の所有権は国庫に帰属します。

負担金の納付をしない場合は、承認決定が失効します。

相続放棄以外にも古い家を手放す選択肢はある!手間なく簡単に手放したい場合は専門の買取業者に依頼しよう

この記事では、古い家の「管理義務」の有無をケース別に解説し、「管理義務」を怠った場合のリスク、「管理義務」から逃れる方法、「相続放棄」せずに古い家を処分する方法、などについて解説しました。

「相続放棄」は古い家の相続を避けるための有効な方法ですが、「相続放棄」せずに古い家を取得した後に手放すという選択肢もあります。

具体的には「売却する」「譲渡する」「寄付をする」「相続土地国庫帰属制度を利用する」方法が挙げられます。

この中では、手間をかけずに短期間で現金化できる「専門の買取業者に依頼する」方法をおすすめします。

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