空き家の実家を相続放棄するとどうなる?管理義務や相続放棄以外の選択肢について

相続により、空き家などの物件を自分の資産としてしまうと固定資産税や管理費のようなコストがかかります。

そのため、相続人候補者は「相続をしない」という考えに思い当たるケースも少なくありません。

しかしながら、土地の相続放棄は簡単にできることではない上に、相続放棄に際して煩雑な手続きが必要になることがあります。

また、土地の相続放棄ができたとしても、管理責任が残ることがあります。

そこで今夏は、不要な土地を相続してしまう可能性がある際に、トラブルや不要な出費を抑えるためにできる方法について解説します。

もし自身が空き家の処分を考えなければならない可能性がある場合などに、参考にしてみてください。

目次

空き家になった実家だけを相続放棄することはできない

相続時、空き家が不要であるからといっても空き家だけの相続放棄をすることはできません。

相続放棄とは、すべての資産について相続をしないことです。

相続放棄をすると、相続放棄した人は「相続の権利がない者」になります。

相続の権利を失うので、思い入れがある物品などを自分で所有することも叶わなくなります。

そのため、実家だけは相続しないというような一部だけの資産を選択するといった行為はできません。

相続に関して、限定承認という手段があります。

限定承認とは、遺産の中で返済可能なマイナスの遺産だけを相続するという方法です。

しかしながら空き家とはマイナスの遺産とカウントされないため、限定承認による相続放棄もできません。

空き家になった実家を相続放棄するとどうなる?

ある相続人が実家の相続を放棄すると、次の相続の権利を持つ相続人へ渡ることになります。

そのいずれの相続人においても相続放棄が行われると、不動産の所有権限は国に受け継がれます。

しかしながら、不動産を国に帰属させるためには弁護士・司法書士といった第三者を「相続財産管理人」とする申請を行わなければなりません。

さらに申請が受理された後、その不動産に相続人がいないことを法律的に確定させる、といった手続きが必要になります。

また不動産の相続放棄をすると、以下の特徴的なことが起こります。

固定資産税などを支払う必要がなくなる

相続により空き家などを所有すると、土地にかかる税金である固定資産税の支払い義務が発生します。

固定資産税とは、毎年の1月1日時点においてある土地の登記簿上の不動産所有者に発生する支払い義務です。

つまり遺産相続などで不動産を相続すると、相続した者に固定資産税の支払い義務が生じるのです。

しかしながら相続放棄を行えば、その不動産を所有しないことになるので、空き家という土地の所有に伴う固定資産税は発生せず、支払う必要はなくなります。

管理義務が発生する

相続放棄により空き家の所有権がなくなれば、固定資産税の支払い義務も消えるため自分はその空き家とは今後一切関係がないと捉えがちです。

しかしながら、その空き家の「管理義務」は相続を放棄しても発生する可能性があります。

そこで以下2つのパターンごとにおける、空き家の相続放棄に伴う管理義務について解説します。

2023年4月の法改正により、空き家を管理・占有している相続人が他にいる場合はその人物に管理義務が発生することに

2023年4月1日に民法が改正されました。

空き家の相続についても、この改正の影響を受けています。

改正された法令では「相続放棄後の管理責任」についてが明確にされています。

民法上では、「相続の放棄をした者」が、相続放棄時に「相続財産に属する財産を現に占有している場合」においては管理責任を負わねばならないのです。

この規定により、相続放棄をしたあとでも被相続人である故人の資産管理などをしている人がいる場合、その人は空き家の管理責任を負うことになるのです。

管理義務は次の相続人や相続財産管理人に引き渡すまで継続する

相続放棄した場合でも発生する空き家の管理義務は、相続放棄後に候補となる次の相続人もしくは「相続財産管理人」に、当該物件を引き渡すまで発生し続けることになります。

相続財産管理人とは、以下の者を指します。

相続財産管理人:被相続人の遺産である相続財産の「適切な保存・利用・管理」を行う者

相続人候補となる全員が空き家の相続を放棄した場合は、他に相続人がいない状態です。

民法上、当該物件は「相続人がいることが明らかではない状態」となります。

その場合、民法第951条の規定により空き家を法人化することになります。

さらに民法第952条第1項の規定に従い「相続財産清算人」を選ばなければなりません。

相続財産清算人とは、下記の者のことです。

相続財産清算人:相続人がいることが明らかではない場合に「被相続人の相続財産を管理・清算する」者

相続財産精算人は選任の申し立てにより選ばれます。

被相続人にとっての利害関係者(例:債権者)などが選任を申し立てればすぐに決まります。

しかしながら相続財産清算人が見つからない場合は、家庭裁判所で「相続財産管理人選任もしくは相続財産清算人選任の申し立て」をしなければなりません。

一方、相続放棄しただけの状態では、利害関係者として相続財産管理人選任の申し立てができません。

当該物件について、自治体から管理を求められるような事態になっていないのであれば、最後に相続放棄をした相続人であっても利害関係者として相続財産清算人などの選任申し立てができないのです。

自治体から管理を求められるケースとは、当該物件について老朽化などによる倒壊の危険性が生じ、何らかの管理をして処置せねばならない場合などです。

選任の申し立てに利用される家庭裁判所は、「被相続人の最終住所地」を管轄している裁判所が該当します。

各種選任が行われ、空き家など該当物件を含んだすべての相続財産の引き渡しが済むことにより初めて、「相続放棄した相続人」は空き家の管理義務を持たなくなるのです。

相続放棄した空き家を管理しなかったらどうなる?

もし空き家の相続放棄をした人が、管理義務を負いながら相続放棄した空き家の管理をしなかった場合はどうなるでしょうか。

空き家の管理義務を怠った場合は、以下の問題が発生し、責任を問われ金銭を伴う賠償請求などに発展する可能性があります。

空き家の管理義務を怠った場合に発生しうる問題

  • 通行人や近隣住民に被害が及ぶと、損害賠償を請求される可能性がある
  • 近隣住民から苦情が寄せられる可能性がある
  • 行政の指導が入る可能性がある

それぞれの項目について、次からより詳しく解説します。

【1】通行人や近隣住民に被害が及ぶと、損害賠償を請求される可能性がある

空き家を放置することによるリスクは老朽化にあります。

つまり家屋事態が少しずつ経年劣化で損傷していき、朽ちた壁や屋根などが隣接の道路に落ちてしまう可能性があります。

道路など公共の場にそういった障害物が落下することは、一般の通行者に被害や迷惑を掛ける可能性を高めるのです。

端材などが直接、近隣の方に物理的な怪我をさせたりしてしまう可能性もあります。

空き家の管理放棄による被害者が現れてしまった場合は、管理責任が問われるだけでなく、損害賠償請求といった事態に発展することになります。

【2】近隣住民から苦情が寄せられる可能性がある

空き家の劣化により直接的な被害が近隣の人々や通行者に及ばなかったとしても、管理放棄された家屋とは動物被害や異臭、景観悪化、犯罪者による悪用(たまり場・拠点利用)をもたらすものです。

そういった原因が空き家の管理放棄にあるのであれば、相続放棄をした空き家であっても管理責任者に苦情が届いたり、損害賠償請求が生じるような事態に発展する可能性が高まります。

【3】行政の指導が入る可能性がある

「空家等対策の推進に関する特別措置法」や「空家特措法」によると、空き家の相続放棄をした人は空き家の管理者に該当するため、市町村のような自治体・行政からの助言・指導・勧告・命令を受ける対象となります。

また一方では行政執行により空き家解体が決定されたとしても、責任者の立場には立たされるものの、解体費用などの負担まではしなくていいという解釈もでき、当該責任の範囲は個別具体的な状況により左右されることが予想されます。

空き家の実家を相続放棄してもコストはかかる

相続することになる空き家の管理や責任が忌避され相続放棄が行われることがありますが、その空き家に対する相続人ではなくなったからといって、空き家に関する費用支払いが一切発生しなくなるというわけではないため、注意が必要です。

以下2つのパターンで、たとえ相続放棄した空き家であってもコストが発生することがあります。

相続放棄した空き家で発生する可能性のあるコスト

  • 空き家を管理する費用
  • 相続財産管理人への報酬

さらに詳しく解説します。

【1】空き家を管理する費用

相続したくない空き家を含め、すべての財産において相続放棄をすれば固定資産税の支払い義務はなくなります。

しかしながら空き家の管理責任を持つ者として、「相続財産」としての空き家を管理するための費用が発生することがあります。

【2】相続財産管理人への報酬

空き家の管理について、相続財産管理人や相続財産清算人を選任した場合も空き家管理費用が発生することがあります。

これは相続財産管理人や相続財産清算人が行う空き家管理に対する「報酬」です。

この報酬額は10万円台となることもあれば、100万円台をある日付までの費用として一度に支払うこともあるため、注意が必要です。

相続放棄しない方が安く・早く処分できる可能性も

空き家を相続した場合、固定資産税などコストがかかります。

しかしながらこの固定資産税を払いつつも、同時に空き家の処分方法を模索することで結果的に相続放棄するよりも短時間で空き家を手放せる可能性があります。

また、相続放棄に関わる煩雑な手続きをしなくて済むというメリットもあるのです。

相続放棄をしたところで、相続財産清算人を選任して空き家を管理し続けなければならないことも、相続放棄をしないことを選ぶ理由になります。

なぜなら相続財産清算人には、その資産管理という労働に対する報酬を支払わなければならないためであり、結局総額が固定資産税を支払い続けた場合と同じ程度になってしまうこともあるためです。

さらに、ただでさえ空き家となってしまうような不動産は価値が低く見積もられがちであり、価値が低い物件とは処分に相応の時間を要することもあります。

このように、相続放棄をしないほうが素早く、コストも安く空き地を処分できる可能性もあるのです。

限定承認について

また、限定承認をするという方法もあります。

限定承認とは以下の意味を持ちます。

限定承認:相続放棄をせずに、相続する資産の範囲のうち「負債分」を相続すること。負債分を「財産的価値を持つ資産」で返済したうえでまだ資産が残っていた場合、相続することが可能

このように財産的価値を持つ資産が遺されている場合は相続放棄をせずに限定承認を行っても良いと考えられます。

しかしながら限定承認は手続きが複雑であり、相続人全員の承認を得る必要があるなど進め方が困難です。

限定承認の手続き可能期間は、相続放棄と同様3ヶ月以内となっています。

相続放棄以外で空き家の実家を処分する5つの方法

以下からは相続放棄をする以外の方法で、実家の空き家など遺産となってしまった物件を処分する方法を解説します。

相続放棄以外で空き家の実家を処分する5つの方法

  • 不動産会社に売却する
  • 専門の買取業者に買い取りを依頼する
  • 近隣住民に買い取ってもらう
  • 寄付をする
  • 賃貸物件として活用する

それぞれの方法について、さらに詳しく解説します。

空き家の処分に困っており、相続放棄も考えたくない場合の参考にしてください。

<1>不動産会社に売却する

空き家となってしまった実家を手早く処分する方法は、不動産会社へ空き家を売却することです。

仮に築年数が20年以上のような古い物件だったり、管理不足で空き家となってしまってからの期間も相応にある場合でも、不動産会社であれば専門知識や売却のためのノウハウをみにつけているため十分に売却の可能性があります。

例えば、不動産会社が古い空き家を売却する方法として以下が挙げられます。

不動産会社が古い空き家を売却する方法

  • 「古民家付き土地」として売却:「空き家を売る」という考え方ではなく、「建物がセットとなっている土地」として売る方法。解体の必要がない(※販売中に損壊しないよう注意)
  • 更地にして売却:空き家を解体し、土地として売る方法。新規に建設をしたい買い手のニーズに応えやすい。(※解体費用は100万円以上はかかるため注意、※宅地としての土地利用がない場合、固定資産税が最大6倍に増加)

<2>専門の買取業者に買い取りを依頼する

不動産のプロである、専門の買取業者に相続した空き家を売る方法があります。

買取業者に売却した場合、土地を手放せるだけでなく、金銭も得られるというメリットがあります。

しかしながら地方の土地などは資産価値から売却が難しいこともあります。

そのため、事前に土地が売却するに足るものなのかを調べることをおすすめします。

土地売却ができるかどうか調べる方法として、一括査定サイトを利用する方法や、痴呆専門の不動産業者に相談を持ち込む方法があります。

<3>近隣住民に買い取ってもらう

処分したい空き家のそばに住民がいるばあい、その近隣住民に空き家の購入を持ちかける方法があります。

これは「隣り合わせの土地」に価値があるために利用できる方法で、もし隣家が空き家を購入した場合、単純に敷地が増えるため多くのメリットがあります。

また現地が住宅密集地や、旗竿地などの不整形地であった場合は、土地の合成により資産価値が高まるため交渉に応じてくれやすくなります。

隣家が、もとから広い土地を持っていてこちらが処分しようとしている土地が狭い場合は交渉に応じられないかもしれません。

土地の売買契約は個人間でも可能なものの、正式な書面の作成や確認事項の抜け漏れ、後から言った言わないといった事象を招きかねないため、知り合い同士の売買であっても不動産会社の仲介を入れることをおすすめします。

<4>寄付をする

国庫は不要な土地を買い取ったりしないものではありながら、地方自治体や法人であれば寄付を受け付ける場合があります。

このため、空き家の売却先を探すのと同時に寄付先も探せば、効率的な処分が可能になります。

土地の寄付については、現金化してから寄付することが求められがちです。

一方、土地としての寄付を受け入れられることもあるため、不動産会社を挟むなりして交渉してみてください。

また、個人への寄付が成立してしまうと贈与税がかかるため注意してください。

<5>賃貸物件として活用する

空き家がどうしても処分できない場合、処分を考えようとするのではなく活用面からアプローチする方法があります。

つまり空き家といえども「住宅」であるため、そこに住みたい人を探して賃貸物件として利用するという方法です。

空き家の老朽化が顕著な場合は、解体してアパートなどを建築する方法もあります。

賃貸物件であれば、家賃収入が得られるようになります。

一方で土地活用が実際にできるのかどうかについては、相続した不動産の状態により可否が変わります。

そのため、もしいらない空き地を賃貸物件として利用したい場合は不動産の専門家の見識を尋ねてみてください。

手っ取り早く処分したい場合は専門の買取業者に依頼するのがおすすめ

自分にとっては不必要ながら、相続しなければならない空き家がある場合、処分の方法は数多くあります。

空き家のてっとり早い処分方法は、専門の買取業者に依頼することです。

空き地がもし地方に立地するのであれば、地方の買取業者に依頼することが可能です。

買取業者とは不動産のプロであるため、同様の事例を多く担当しています。

そのため、処分や売却の可能性が高いといえるのです。

空き家になった実家は相続放棄しなくてもスムーズに処分できる!相続放棄をする前に専門の買取業者に相談を!

処分や利活用の余地がないような空き家を相続してしまった場合でも、処分や売却する方法はあります。

場合によっては近隣住民が買い取ってくれたり、賃貸物件として利用することもできます。

一方、空き家を放置したままでは、管理責任を問われたり損害賠償請求へと発展してしまうこともあります。

空き家を相続してしまえば、固定資産税がかかり、何もしなくても自分の資産が減り続けることになります。

空き家に関わる様々なデメリットを回避するためにも、もし不要な空き家がある場合は、専門の買取業者に相談してみてください。

Follow me!