市街化調整区域の土地は相続放棄したほうがいいのか?検討する際の4つのポイント
「市街化調整区域」の土地を相続することになった場合に、「相続放棄」すべきかどうかについて悩む方が多いようです。
そこで今回は、「市街化調整区域」の土地の「相続放棄」を検討する際の4つのポイント、「相続放棄」をする場合の注意点、「相続放棄」をせずに処分する方法などについて詳しく解説します。
有限会社アティック取締役の橘田浩志です。2000年にデザイン会社として創業。出版を中心に雑誌や書籍などのデザインを手がける。2013年より不動産賃貸業を始める。アパート、区分マンション、戸建てなど様々な物件を購入。他にシェアオフィス 「原宿テラス」や民泊の運営など不動産を活用する事業も並行して行う。2023年より不動産業として日本全国の戸建物件の買取再販、東急世田谷線沿線専門仲介などの事業をスタート。
- 1. 市街化調整区域の不動産は相続放棄したほうがいいのか?
- 2. 相続放棄を検討する際の4つのポイント
- 2.1. ポイント1:相続放棄後の管理義務は発生するか
- 2.1.1. 「現に占有している」者には管理義務が残る
- 2.2. ポイント2:区域見直しの可能性はあるか
- 2.3. ポイント3:農地に指定されているか
- 2.3.1. 利用価値がある土地1:農地として条件が良い場合
- 2.3.2. 利用価値がある土地2:土地が大通りに接している場合
- 2.3.3. 利用価値がある土地3:土地の近くにインターチェンジや空港などがある場合
- 2.3.4. 相続放棄を検討すべき土地1:農地の種類が「甲種」「第一種」の場合
- 2.3.5. 相続放棄を検討すべき土地2:狭い農道にしか接していない場合
- 2.3.6. 相続放棄を検討すべき土地3:耕作放棄地となっている場合
- 2.3.7. 相続放棄を検討すべき土地4:農業を受け継ぐ相続人がいない場合
- 2.4. ポイント4:活用できるか
- 3. 相続放棄をする場合の注意点
- 3.1. 注意点1:3ヶ月以内に申請する必要がある
- 3.2. 注意点2:プラスの遺産も相続できなくなる
- 3.3. 注意点3:撤回することができない
- 3.4. 注意点4:後順位の相続人に権利が移る
- 4. 相続放棄をせず、市街化調整区域の土地を処分する方法
- 4.1. 【1】売却する
- 4.1.1. 不動産仲介を利用する
- 4.1.2. 専門の買取業者に売却する
- 4.2. 【2】寄付する
- 4.3. 【3】譲渡する
- 4.4. 【4】相続土地国庫帰属制度を利用する
- 5. 市街化調整区域の土地を手放したいなら、相続後に処分するのも1つの方法!
市街化調整区域の不動産は相続放棄したほうがいいのか?
「市街化調整区域」とは、主に農地などを保全する目的のために、市街化を制限する区域のことをいいます。
都市計画法の定義では「市街化を抑制すべき区域」とされており、原則として宅地などの開発行為や道路・上下水道などの都市施設の整備が行われません。
ただし、一定の農林水産業施設や公益上必要な施設、公的機関による開発行為(たとえば土地区画整理事業など)などは可能となっています。
新たに建築物を建てたり増築したりする場合には開発許可を得る必要がありますが、既存の建築物の建替えについては、一定の範囲までは許可を必要としないことが多いようです。
そもそも評価額が低いうえに、このような建築制限がある利用価値の低い「市街化調整区域」の土地を相続することを敬遠するケースが多くなっています。
相続しないためには「相続放棄」という選択肢を選ぶことになりますが、「相続放棄」をしても不動産の「管理義務」が残ることがありますので、土地の管理にかかる負担があまり変わらないという実態もあります。
相続放棄を検討する際の4つのポイント
「相続放棄」は「市街化調整区域」の土地を相続しないための一つの選択肢ですが、重大な法律行為ですから、曖昧な知識のまま行うと、後から後悔したり思わぬ不利益を受けたりすることになりかねません。
そこで、ここでは「相続放棄」を検討するに際して考慮すべき4つのポイントについて説明します。
ポイント1:相続放棄後の管理義務は発生するか
「相続放棄」をした後にその不動産の「管理義務」が発生するかどうかは、従来の民法では曖昧なところがありましたが、2023年4月の民法改正によって「相続放棄」をした時点において対象となる不動産を占有していたかどうかによって判断されることになりました。
「現に占有している」者には管理義務が残る
2023年4月の改正民法の「管理義務」の条文(民法940条1項)によれば、「相続放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているとき」は「管理義務」が残ると規定されています。
つまり、「相続放棄」をした時点に「市街化調整区域」の土地を占有していた場合には、「相続放棄」後も「管理義務」が発生することになります。
逆に言えば、「相続放棄」をした時点に「市街化調整区域」の土地を占有していなければ、「相続放棄」をしても「管理義務」は発生しないということです。
ポイント2:区域見直しの可能性はあるか
地方自治体は、都市計画区域を定めるために、「市街化区域」と「市街化調整区域」に区分しますが、これは将来に渡って固定化されたものではなく、適宜見直しを行っています。
この見直しによって、相続した「市街化調整区域」の土地が「市街化区域」に編入される可能性もあるということです。
相続予定の「市街化調整区域」の土地が「市街化区域」とどのような位置関係にあるのかも検討ポイントとなります。
また最近では、「市街化調整区域」であっても、建築要件の緩和を行っている地方自治体もありますので、近年の動向についても調べて見る必要があります。
ポイント3:農地に指定されているか
「市街化調整区域」が農地に指定されているかどうかも大きな検討ポイントになります。
農地に指定されている場合の選択肢としては、大きく「農地として利用する」「農地転用許可を受けて農地以外に転用して利用する」「相続放棄をする」の3つがあります。
どの選択肢を選べば良いのかは、土地の種類や立地、農地の状態、建物建築の可否などによって異なりますので、これらを考慮していずれを選択するのかを判断しなければなりません。
まず、農地として指定されている場合は、農地として利用できるかどうかを検討しましょう。
次に、農地に指定されていても「農地転用」という手続きを行って許可を得れば、農地以外に転用して利用することができますので、その利用ができないかを検討しましょう。
そして、最終的に農地としても農地以外にも利用する可能性がない場合は、「相続放棄」を検討することになります。
以下では、「(農地としてまたは他の用途として)利用価値がある土地」と「(農地としてまたは他の用途として利用可能性がないため)相続放棄を検討すべき土地」に大別し、さらに次のようにケース分けして解説します。
利用価値がある土地
- 利用価値がある土地1:農地として条件が良い場合
- 利用価値がある土地2:土地が大通りに接している場合
- 利用価値がある土地3:土地の近くにインターチェンジや空港などがある場合
相続放棄を検討すべき土地
- 相続放棄を検討すべき土地1:農地の種類が「甲種」「第一種」の場合
- 相続放棄を検討すべき土地2:農道にしか接していない場合
- 相続放棄を検討すべき土地3:耕作放棄地となっている場合
- 相続放棄を検討すべき土地4:農業を受け継ぐ相続人がいない場合
利用価値がある土地1:農地として条件が良い場合
「市街化調整区域」の農地が、農地としての良好な条件を備えている場合は、自分で営農したり第三者に農地として貸し出したりして利用してもらうことができます。
近隣の農家に借りてもらうことができれば一番良いのですが、自治体によっては農業関係用地として借りてくれることもあるようです。
ただし、農地として貸し出す場合の賃料は高額ではありませんので、固定資産税に相当する賃料が得られれば良いという程度に考えておいた方が良いでしょう。
利用価値がある土地2:土地が大通りに接している場合
「市街化調整区域」の農地が、交通量の多い国道や県道などの大通りに接している場合は、「沿道サービス」という特例を利用することが考えられます。
「沿道サービス」とは、道路の円滑な交通を確保するために、適切な位置に設けられる施設のことで、例えば、ドライブイン・レストラン・コンビニなどの休憩所、ガソリンスタンド、道路管理施設などが該当します。
「沿道サービス」が適用できるかどうかについては、「市街化調整区域」に詳しい不動産会社などの専門家に相談する必要があります。
利用価値がある土地3:土地の近くにインターチェンジや空港などがある場合
「市街化調整区域」の農地の近くに、高速道路のインターチェンジや空港などがある場合には、物流施設(物流倉庫)などとして貸し出せる可能性があります。
これについても、「市街化調整区域」に詳しい不動産会社などの専門家に相談する必要があります。
相続放棄を検討すべき土地1:農地の種類が「甲種」「第一種」の場合
「市街化調整区域」の農地の種類が「甲種農地」「第一種農地」の場合は、「相続放棄」を検討すべきでしょう。
これらの種類の場合は、農業関係以外の用途にすることができないため、他の用途への転用許可が下りないからです。
農地としての良い条件を備えているとは言い難い場合や自分で営農する予定がない場合は、「相続放棄」を検討した方が良いと考えられます。
相続放棄を検討すべき土地2:狭い農道にしか接していない場合
「市街化調整区域」の農地が狭い農道にしか接していない場合も、「相続放棄」を検討すべきでしょう。
国道や県道などの大通りに接していなくても、トラックなどの大型車が出入りできるような土地であれば、トラックターミナルや資材置き場などとして貸し出しすることもできますが、普通車程度しか出入りできないような土地はほとんど利用価値がありません。
このケースの場合は、「相続放棄」を検討した方が良いと考えられます。
相続放棄を検討すべき土地3:耕作放棄地となっている場合
「市街化調整区域」の農地が、耕作放棄地となっている場合も、「相続放棄」を検討すべきでしょう。
農地は一旦工作を放棄してしまうと、再び農地として利用するためには土壌改良を行う必要があります。
土壌改良にはそれなりの費用がかかってしまいますので、一旦見積もりを取ってみて費用がかかりすぎる場合は「相続放棄」を検討した方が良いでしょう。
相続放棄を検討すべき土地4:農業を受け継ぐ相続人がいない場合
「市街化調整区域」の農地が、農地以外への転用の見込みがなく、かつ農業を受け継ぐ相続人がいない場合も、「相続放棄」を検討すべきでしょう。
ポイント4:活用できるか
「市街化調整区域」の土地活用の方法には、大きく次の2つの方法があります。
市街化調整区域の土地の活用方法
- 建物の建築が必要のない土地活用を行う方法
- 自治体との協議や建築許可を受けて土地活用を行う方法
前者の例としては、駐車場や太陽光発電、資材置き場などは、建物を建てる必要がありませんので、比較的少ない初期投資で始めることができます。
後者の例としては、サービス付き高齢者向け住宅、住宅型有料老人ホームなどの高齢者施設、特別養護老人ホームなどの社会福祉施設、医療施設、霊園などがあります。
「市街化調整区域」での土地活用については、専門的な知識が必要なのはもちろん自治体との協議や申請手続きなども必要となりますので、実績のある不動産会社などに相談しましょう。
相続放棄をする場合の注意点
「相続放棄」は、重大な法律行為ですので、曖昧な知識や不十分な検討のまま行ってしまうと、後々後悔したり不利益を被ってしまったりすることもあります。
そこで、ここでは、「相続放棄」をする際の重要な4つの注意点について紹介します。
注意点1:3ヶ月以内に申請する必要がある
「相続放棄」は、被相続人が亡くなって相続が発生したことを知ってから3ヶ月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出します。
もし、3ヶ月以内に「相続放棄」を行わなかった場合は、自動的に「単純承認」を選択したものとみなされます。
「単純承認」とは、被相続人のすべての遺産を引き継ぐというものですので、被相続人に多額の負債や借金があった場合はそのマイナスの遺産も相続することになります。
注意点2:プラスの遺産も相続できなくなる
「相続放棄」をすると、プラスの遺産も含めて全ての遺産の相続ができなくなります。
つまり、「市街化調整区域の土地」だけを「相続放棄」することはできず、他の不動産や預貯金、有価証券なども相続できなくなるということです。
注意点3:撤回することができない
原則として「相続放棄」は撤回することができませんので、慎重に行う必要があります。
ただし、以下に示す「詐欺」「脅迫」「錯誤」などによって、自分の本意ではなく「相続放棄」を行ったことが証明できる場合には、「相続放棄」を取り消すことができます。
「相続放棄」を取り消すことができる3つの場合
- 詐欺:他人に騙されて勘違いや思い違いをして「相続放棄」をしてしまった場合
- 強迫:他人に脅されて恐怖心から「相続放棄」をしてしまった場合
- 錯誤:自分の勝手な勘違いによって「相続放棄」をしてしまった場合
注意点4:後順位の相続人に権利が移る
自分自身が「相続放棄」をすると、後順位の法定相続人に相続権が移ります。
一般的には、自分自身の法定相続人である配偶者や子供などが新たな相続人になります。
法定相続人は「被相続人の配偶者」と、次の第1順位から第3順位までの最上位者に引き継がれます。
法定相続人の順位
- 第1順位:被相続人の子
- 第2順位:被相続人の直系尊属(父母や祖父母の中で最も親等が近い人物)
- 第3順位:被相続人の兄弟姉妹
もし、子が亡くなっている場合は孫に順位が引き継がれ、兄弟姉妹が亡くなっている場合は甥や姪に順位が引き継がれます。
相続放棄をせず、市街化調整区域の土地を処分する方法
「相続放棄」をするかどうかを判断する際には、いろいろな検討すべきポイントがあり注意すべき点があることがご理解いただけたかと思いますが、ここでは「相続放棄」以外のやり方で「市街化調整区域」の土地を処分する方法について紹介します。
【1】売却する
「市街化調整区域」の土地の処分方法として、売却する方法があります。
しかし、「市街化調整区域」の土地には建築制限があり利用価値も低いため、評価額が低いことから、そのままの状態ではなかなか売れないことが十分考えられます。
たとえば、隣地の所有者や農業を営んでいる人に購入してもらえないかを相談したり、売出し価格を安く設定したりするなどの工夫が必要となります。
不動産仲介を利用する
「市街化調整区域」の土地を売却する場合に、不動産仲介を利用する方法があります。
不動産会社の中には、「市街化調整区域」の不動産の取り扱いに不慣れなところもありますので、複数の不動産会社に査定を依頼して、それぞれの不動産会社から査定結果の説明を受けましょう。
説明を聞くことによって、「市街化調整区域」に詳しい不動産会社かどうかが判断できます。
その上で、「市街化調整区域」に詳しく査定価格の高いところに依頼するようにしましょう。
専門の買取業者に売却する
「市街化調整区域」の土地の売却方法の一つとして、専門の買取業者に売却する方法があります。
買い取り代金は通常の売却代金よりは安くなってしまいますが、売主にほとんど手間がかからず、短期間ですぐに売却できることが大きなメリットです。
【2】寄付する
「市街化調整区域」の土地の処分方法として、寄付する方法もあります。
寄付の相手に無償で土地を渡して、自分自身の所有権をなくす方法ですが、寄付の相手としては、自治体、法人(営利法人や公益法人など)、個人があります。
自治体に寄付する場合は、自治体側に具体的な使用目的があり、かつ自治体が設定した条件を満足している場合であれば寄付を受け入れてくれますが、実際に寄付を受け入れている例は少ないようです。
自治体としては、土地は個人に所有してもらって固定資産税を納めてもらった方が良いからです。
法人の場合も、具体的に使用する目的がある場合は寄付を受け入れてくれる可能性もありますが、「市街化調整区域」の土地の寄付を受け入れるところはあまりないと思われます。
営利法人が寄付を受け取ると「みなし譲渡所得」として課税対象となりますが、公益法人の場合は所定の手続きをすることによって非課税となります。
個人へ寄付する場合に最も現実的なのは隣地の所有者に寄付することで、これは隣り合った土地であれば有効に活用することができると考えられるからです。
寄付を受けた個人は、贈与を受けたことになるため贈与税がかかりますので、この点について了解が得られれば、寄付を受け取ってもらえる可能性は高いと考えられます。
【3】譲渡する
「市街化調整区域」の土地の処分方法として、知人や親族などに譲渡するという方法があります。
知人や親族などの中に「市街化調整区域」の土地を活用したいという人がいれば、相手にも喜んでもらえますし、自分自身も「相続放棄」をする必要がありません。
ただし、この場合は「市街化調整区域」の土地を受け取った側には贈与税が課税されることになりますので注意が必要です。
なお、譲渡した側の自分自身には税金はかかりません。
【4】相続土地国庫帰属制度を利用する
「市街化調整区域」の土地の処分方法として、「相続土地国庫帰属制度」を利用する方法があります。
この制度は、2023年4月から始まった制度で、土地の所有者と土地そのものに対して要件が定められています。
まず、利用できる土地の所有者は、相続や遺贈によってその土地を取得した人のみです。
また、土地そのものは、抵当権等の設定がなく争いや問題がない更地となっていますので、建物が建っていたり、抵当権が設定されていたり、汚染されている土地だったり、境界が明らかでない土地などはりようできません。
この制度を利用するためには、法務局に承認申請を行い、10年分の土地管理費用相当額の負担金の納入が必要となります。
市街化調整区域の土地を手放したいなら、相続後に処分するのも1つの方法!
この記事では、「市街化調整区域」の土地の「相続放棄」をするかどうかを検討するポイントや注意点、「相続放棄」をせずに処分する方法などについて解説しました。
「市街化調整区域」の土地を相続するかどうかは悩ましい問題ですが、「相続放棄」を選択すると現金や有価証券等のプラスの財産の相続もできなくなってしまいます。
このようなときに検討に値するのは、相続後に処分する方法です。
「売却する」「寄付する」「譲渡する」「相続土地国庫帰属制度を利用する」など4つの方法がありますが、この中では「専門の買取業者に売却する」方法が、短期間で確実に処分できますのでおすすめです。
有限会社アティック取締役の橘田浩志です。2000年にデザイン会社として創業。出版を中心に雑誌や書籍などのデザインを手がける。2013年より不動産賃貸業を始める。アパート、区分マンション、戸建てなど様々な物件を購入。他にシェアオフィス 「原宿テラス」や民泊の運営など不動産を活用する事業も並行して行う。2023年より不動産業として日本全国の戸建物件の買取再販、東急世田谷線沿線専門仲介などの事業をスタート。