共有持分のみ相続放棄できる?自分や他者が相続放棄したあとの流れをケース別に解説
「共有持分」とは、不動産を複数名で所有しているときの、各所有者が持っている所有権の割合のことです。
「共有持分」が発生する原因はいくつか考えられますが、最も多いのは相続によって配偶者や子供などが不動産を相続したことによるものです。
この「共有持分」は不動産の所有権ですので、一見資産価値があって良さそうに思えるのですが、実際にはいろいろな問題を含んでいるため、「共有持分」を相続することになった場合や相続によって「共有持分」が発生してしまう場合は注意が必要です。
「共有持分」の問題としては、「共有名義の不動産」の使用方法を変更したり売却したりするときに共有者全員の意見が一致することが必要となるため、共有者の誰か一人でも反対すると話を進めることができなくなるということが挙げられます。
もう一つの問題としては、それぞれの共有者が亡くなって相続が発生すると、それぞれの「共有持分」が配偶者や子供などに相続されるため、細分化されてしまうということです。
「共有名義の不動産」の使用方法の変更や売却などについて意見をまとめたくても、共有者が誰なのかが分からなくなっていたり、連絡が取れない共有者がいたり、連絡が取れても全員の意見がまとまらなかったりしてトラブルになってしまうことが考えられます。
さらに、不動産には固定資産税がかかりますし、「共有名義の不動産」が空き家になって放置されている場合は、「特定空き家」に認定されないように適切な維持管理を行う必要があります。
もし、自分が「共有持分」を相続することになった場合や、相続することによって「共有持分」が発生する場合は、このようなトラブルに巻き込まれるかもしれないという覚悟が必要です。
今回は、「共有持分」のみを「相続放棄」することができるのか、また自分や他者が「相続放棄」したあとの流れについて、想定されるケース別に詳しく解説します。
有限会社アティック取締役の橘田浩志です。2000年にデザイン会社として創業。出版を中心に雑誌や書籍などのデザインを手がける。2013年より不動産賃貸業を始める。アパート、区分マンション、戸建てなど様々な物件を購入。他にシェアオフィス 「原宿テラス」や民泊の運営など不動産を活用する事業も並行して行う。2023年より不動産業として日本全国の戸建物件の買取再販、東急世田谷線沿線専門仲介などの事業をスタート。
- 1. 共有持分のみ相続放棄することは可能?
- 2. 【ケース別】相続放棄したらどうなるの?
- 2.1. ケース1:自分が相続放棄した場合
- 2.1.1. 相続順位に沿って相続人が決定される
- 2.1.2. 自分に法定相続人がいない場合
- 2.1.3. 自分の法定相続人全員が相続放棄した場合
- 2.2. ケース2:他の相続人が相続放棄した場合
- 2.2.1. 自分以外の相続人が全員相続放棄した場合
- 2.3. ケース3:自分を含む相続人が全員相続放棄した場合
- 2.3.1. マイナスの財産がプラスの財産よりも多い場合は相続財産管理人を選任する
- 2.3.2. 相続人以外の共有者に共有持分を移すときは相続財産管理人を選任する
- 2.4. ケース4:遺言書で共有持分が遺贈されている場合
- 3. 共有持分はいらないけど相続放棄はしたくない場合は「売却」する方法もある!
- 4. 相続放棄せずに共有持分を手放すなら専門の買取業者に売却するのがおすすめ!
共有持分のみ相続放棄することは可能?
「相続放棄」とは言葉通り相続を放棄することで、相続の発生を知ったときから3ヶ月以内に被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出することによって行うことができます。
しかし、「共有持分」のみの「相続放棄」はできませんので、「相続放棄」すると他の全ての財産の相続ができなくなってしまいます。
つまり、被相続人の残した財産に、「共有持分」だけではなく預貯金や有価証券などが含まれていたとしても、「相続放棄」をすると、これらの全ての財産の相続ができなくなってしまうということです。
これは、現在「共有持分」は発生していないものの、相続によって「共有持分」が発生してしまう場合にも当てはまり、「相続放棄」をするとすべての財産の相続ができなくなってしまいます。
【ケース別】相続放棄したらどうなるの?
では実際に、「相続放棄」をするとどういうことになってしまうのかについて、想定されるケース別に解説していきたいと思います。
ケース1:自分が相続放棄した場合
自分が「相続放棄」する場合は、被相続人が亡くなって相続が発生してから3ヶ月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出して行います。
これによって、被相続人が「共有持分」を有していた「共有名義の不動産」の納税義務や管理義務から解放され、かつ「共有名義の不動産」のトラブルに巻き込まれる可能性を回避できます。
もちろん、相続によって「共有持分」が発生してしまう場合であっても、「相続放棄」をすることによって、今後「共有名義の不動産」のトラブルに巻き込まれる可能性を回避できます。
なお、もし「相続放棄」の手続きを3ヶ月以内に行わなかった場合は、自動的に「単純承認」を選択したものとみなされます。
「単純承認」とは、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産もすべてを引き継ぐというものですので、被相続人に多額の負債や借金があった場合はその負債や借金も相続することになります。
相続順位に沿って相続人が決定される
もし、自分が「相続放棄」すると相続順位に従って相続人が決定されますので、自分自身の「法定相続人」である配偶者や子供などが新たな相続人になります。
この場合、新たな相続人となった配偶者や子供などが、「共有名義の不動産」の納税義務や管理義務を負い、「共有名義の不動産」のトラブルに巻き込まれる可能性が出てきますので、これはこれで大きな問題となります。
なお、「法定相続人」は「被相続人の配偶者」と、次の第1順位から第3順位までの最上位者に引き継がれます。
法定相続人の第1順位〜第3順位
- 第1順位:被相続人の子
- 第2順位:被相続人の直系尊属(父母や祖父母の中で最も親等が近い人物)
- 第3順位:被相続人の兄弟姉妹
もし、子が亡くなっている場合は孫に順位が引き継がれ、兄弟姉妹が亡くなっている場合は甥や姪に順位が引き継がれます。
自分に法定相続人がいない場合
もし、自分が独身で配偶者や子供などがいない場合は、「法定相続人」がいないということになりますので、他の相続人が「共有持分」を相続します。
または、他の相続人が相続して「共有名義の不動産」の「共有持分」を有することになります。
ここで、他の相続人とは一般的には、自分の親や兄弟姉妹になります。
自分の親や兄弟姉妹とはいえ、すでに独立してそれぞれの人生を歩んでいるわけですから、「共有持分」を相続するかどうかは本人の判断によることになりますが、自分が「相続放棄」することは事前に伝えておいた方が良いでしょう。
自分の法定相続人全員が相続放棄した場合
また、自分に「法定相続人」である配偶者や子供などがいる場合であっても、自分が「相続放棄」したあとに、自分の「法定相続人」全員が「相続放棄」した場合は、他の相続人が「共有持分」を相続します。
または、他の相続人が相続して「共有名義の不動産」の「共有持分」を有することになります。
この場合も、他の相続人である自分の親や兄弟姉妹には、自分の「法定相続人」である配偶者や子供などが「相続放棄」することを事前に伝えておいた方が良いでしょう。
ケース2:他の相続人が相続放棄した場合
次に、自分以外の他の相続人が「相続放棄」したケースについて考えてみます。
他の相続人の誰かが「相続放棄」した場合は、「共有持分」を自分を含む残りの相続人で相続することになります。
この場合は、自分が「共有持分」を持つことになりますので、不動産トラブルに巻き込まれる可能性を回避できません。
なお、他の相続人が「相続放棄」したかどうかを知る方法としては、本人に直接確認する方法と裁判所に確認する方法があり、裁判所に確認する場合は「相続放棄申述書」が受理されたかどうかを照会することができます。
自分以外の相続人が全員相続放棄した場合
自分以外の相続人が全員「相続放棄」した場合は、その相続人は全員いなかったことになりますので被相続人の「共有持分」は、すべて自分が相続することになります。
この場合も、自分が「共有持分」を持つことになりますので、不動産トラブルに巻き込まれる可能性を回避できません。
ケース3:自分を含む相続人が全員相続放棄した場合
自分を含む相続人が全員「相続放棄」した場合は、被相続人には初めから相続人はいなかったということになり、相続されなかった財産は最終的に国庫に納められます。
このとき、財産の中に「マイナスの財産(債務)」があった場合は、債権者に「プラスの財産」を分配して、残った財産が国庫に納められます。
マイナスの財産がプラスの財産よりも多い場合は相続財産管理人を選任する
もし、「マイナスの財産(債務)」が「プラスの財産」よりも多い場合は、債権者から「相続財産管理人」を選任するための申し立てが行われ、「相続財産管理人」が債権者に対する弁済を行います。
相続人以外の共有者に共有持分を移すときは相続財産管理人を選任する
自分を含む相続人が全員「相続放棄」した場合、「共有持分」は「特別縁故者への相続財産分与」か「共有者への帰属」のどちらかを行います。
この場合、「特別縁故者」または「共有者」が、裁判所に「相続財産管理人」の選任の申し立てを行う必要があります。
選任された「相続財産管理人」によって「相続人の不存在」が確定すると、「共有持分」は「特別縁故者」または「共有者」に移転します。
一般的に、これらの手続が終わって実際に「共有持分」を移転するまでには1年以上がかかります。
ケース4:遺言書で共有持分が遺贈されている場合
亡くなった被相続人が、相続人ではない「受遺者」に「共有持分」を遺贈するという遺言書を残している場合は、相続人の「相続放棄」には関係なく、「共有持分」は「受遺者」に移転します。
相続人がいる場合は、相続人が「遺贈義務者」となって、「受遺者」に対して「遺贈目的物」である「共有持分」を引き渡します。
また、相続人が全員「相続放棄」をしている場合は、「相続財産管理人」が選任された後に、「相続財産管理人」が「受遺者」に対して、「遺贈目的物」である「共有持分」を引き渡します。
なお、遺言書で「遺言執行者」が指定されている場合は、相続人の有無には関係なく「遺言執行者」が遺贈を行います。
共有持分はいらないけど相続放棄はしたくない場合は「売却」する方法もある!
「相続放棄」すると、「共有持分」を相続することはなくなりますが、他の財産の相続もできなくなります。
もし、預貯金や有価証券などの遺産がたくさんある場合は、その相続は受けたいと考えるのが普通です。
このようなときに取り得る方法として、「共有持分」を「売却」する方法があります。
つまり、「相続放棄」をせずに「共有持分」を含めたすべての財産を相続し、その後「共有持分」だけを「売却」するのです。
「共有名義の不動産」全体を売却するためには「共有者」全員の合意が必要となるためなかなかスムーズにいかないことが多いのですが、自分の「共有持分」だけの「売却」であれば、自分だけの判断で行うことができます。
この場合、他の「共有者」の許可は必要なく、「売却」したことを連絡をする必要もありません。
「共有持分」を「売却」すれば売却代金が入ってきますし、「共有名義の不動産」の「共有持分」の所有者でもなくなりますから、固定資産税を支払う必要もなく、今後予想されるいろいろなトラブルに巻き込まれる恐れもなくなります。
相続放棄せずに共有持分を手放すなら専門の買取業者に売却するのがおすすめ!
この記事では、「共有持分」を相続することになったときや、相続することによって「共有持分」が発生する場合に、どのような対応を取ることができるのかについて、想定されるケース別に説明しました。
「共有持分」を相続すると、「共有名義の不動産」の納税義務や管理義務を負い、かつ「共有名義の不動産」のトラブルに巻き込まれる可能性があることから、「相続放棄」を選択してしまうことが多いのですが、最もおすすめする方法は「相続放棄」せずに「共有持分」も含めてすべてを相続した後に、「共有持分」専門の買取業者に「売却」する方法です。
この方法であれば、「共有持分」以外の財産も相続することができますし、後々トラブルに巻き込まれる可能性のある「共有持分」は「売却」して、売却代金を一時金として受け取ることができるからです。
有限会社アティック取締役の橘田浩志です。2000年にデザイン会社として創業。出版を中心に雑誌や書籍などのデザインを手がける。2013年より不動産賃貸業を始める。アパート、区分マンション、戸建てなど様々な物件を購入。他にシェアオフィス 「原宿テラス」や民泊の運営など不動産を活用する事業も並行して行う。2023年より不動産業として日本全国の戸建物件の買取再販、東急世田谷線沿線専門仲介などの事業をスタート。